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無限に起因する動機の矛盾に関する議論

『無限に起因する動機の矛盾に関する議論』

原稿用紙 8枚

 久しぶりに作品を追加します。まだまだどこにも出していない作品や、TC投稿作品の再録、文芸誌に出した作品などたくさんあるので、少しずつ追加していこうかと思います。
 今回は会話主体の掌編です。なにやら難しそうなタイトルですが、『無限に起因する動機の矛盾』とは一体なんのことでしょうか。少し考えながら読んでいただくと面白いかもしれません。

以下本文
「なべて人は無限を求めるのじゃないかしら。例えば医学だって無限の寿命、つまり不老不死に近づくための学問と言えるわ。その副産物として病の治癒が可能となっているに過ぎない。自然科学だってこの世を司る根本的原理の統一的整合を目指しても至らない。やはりその過程においてさまざまな発見を見出しているだけなのよ」
「とりあえず論点をずらさないでください。いきなり学問を語られても困ります」
「いいから最後まで聞きなさい。要するにこれは無限という根本的目標を到達したひとつの形であると言いたいのよ。それってすばらしいことじゃない」
「はい、反論です。無限の到達がすべての最終目標であるとするのは横暴です。こと娯楽においては無限よりも楽しさが求められます。はがしてもはがしても銀色シールが復活する銀はがしのどこが楽しいのでしょう。それよりも一日で壊れるとわかっているゲーム機とそのソフトをもらったほうが嬉しいと思います。つまり娯楽としての本質は無限にはないと」
「論点をずらしているのはあなたの方だわ! 何が無限に回復する銀はがしよ。そんなの面白くないに決まってるじゃない」
「はい、ですから無限云々は語る価値がないということですね」
「うるさい! 大体あなたはいつもゲームゲームって、そんなんだから何でもゲーム感覚なのよ。若者の恣意的な犯罪だってみんなゲーム感覚。人を殺すというリアリティを持つことができないのよ」
「私、殺人ゲームなんてやったことがありません」
「とにかくあなたの言うことは説得力がないのよ。ゲームに支配されてゲーム脳になってるんだわ」
「先輩がゲームにどのようなイメージを抱いているのかはわかりませんが、とりあえずゲーム脳なんてものは存在しないと教えてあげます。安心してください」
「ああ、また話が脱線してる!」
「最初にゲーム脳とか言い出したの先輩じゃないですか」
「違うわよ。あなたがゲーム機がどうとか言ったんじゃない。……話を元に戻すわよ」
「はい」
「私も少し言い方が悪かったわ。無限の実現そのものを賛美したんじゃないの。つまりこれまで有限であったこの行為が無限に行われることを評価したってわけよ」
「同じ意味だと思いますが」
「全然違うわよ。あなたの言う銀はがしの例は論外。そもそもあれはある種のギャンブルでしょう? 当たりかはずれか。その結果を確認することが最たる行為の目的であって、セロテープを使ってはがすというのはただのお膳立てにすぎない。ギャンブルを成立させる道具よ。つまりあなたの言う無限銀はがしの価値は、無限に牌の増える麻雀と同等に過ぎないのよ。意味がないどころか、そんなのうっとうしいじゃない」
「四積子もやり放題ですね」
「何よそれ」
「そんなことより、お子様御用達の遊びをギャンブルギャンブルと言うのはどうかと思いますが」
「またそうやって揚げ足ばっかりとる! いいから黙って聞きなさい。だから、この場合における無限は本質が違うということ。行為そのものに意味があるのだから、それが有限から無限に繰り返されることは大きなメリットなの」
「はい、反論があります」
「何よ、言ってみなさい」
「私はあの行為に意味を見出すことができません。故に無限にそれが繰り返されるというのは倦怠感しか生まないと思います。単純作業と同じです。意味のないことの繰り返しは娯楽になりえません」
「あなたが主観に依存するなら、私も言わしてもらうけど、意味なんてものじゃないのよ。だって心地よいじゃない、あの感覚。あなたにはそれがわからないのかしら」
「はい、わかりません。でも一部わかるところはありますよ」
「どういうこと?」
「それは破壊への衝動です。あ、最初に言っておきますがこれは殺人や公共物損壊など大げさなものではなく、人間が本質的にもつ一時的な欲求のひとつと考えてください。ゲーム脳の戯言というつっこみはなしです」
「いいから、早く説明しなさい」
「要するに人は何かを壊すことを欲することがあるということです。私は心理学なんて勉強したことありませんが、そういうことってわかるかと思います。文化祭が終わって教室の壁に貼り付けられた飾りを引きちぎって捨てるのって爽快じゃないですか。そういう類の快感です。快感があればそれへの欲求、衝動が存在します。ここから先輩の心地よいという気持ちを図り知ることができます」
「なるほどね。極端な例だけどなんとなくわかるわ。じゃあどうして、あなたはまずわからないと言ったのかしら」
「それは無限だからですよ」
「無限?」
「破壊とはものが壊れることです。そのままの意味です。ものが壊れるとはすなわち本質的にその物体が二度と同じ形状を成すことができない状況を言います。ぷにぷにのスライムをちぎって二つにしても、それは壊れたとは言わないですよね。陶器のお皿を落っことして二つになれば、それは壊れたと言えます。つまりそういうことです」
「あなたの言いたいことは理解したわ。無限、つまり何度も復活したら破壊に伴う快感が失われると言いたいのでしょう? それは破壊ではないから」
「そういうことです」
「なら間違いを指摘してあげる。バーチャルリアリティが繁栄する理由を考えたことがある? 人間は現実を知っていても仮想を享受することができるものなのよ。仮想現実をただの夢想だと皆が馬鹿にしたら、あなたの大好きなゲームも成り立たないわ。だからね、あなたの言い方をまねすると、私は無限の中に仮想の破壊を求めることができるの。もちろん、そんな理屈抜きにしても楽しいものは楽しいけどね」
「便利な頭をしてますね。私はちっとも楽しくないです」
「ゲーム脳のあなたにだけは言われたくないわ!」
 それから会話は主題を失い、テレビゲームの賛否についての口論が始まった。すぐには終わりそうもない。
そんな話を端で聞いていた僕は読書をやめて、すでに忘れられた存在であるそれを手に取ってみた。
気泡緩衝材を模したキーホルダーである。どこぞの商標である「プチプチ」が広く呼称として広まっている代物だ。この品物は一度潰しても復活して何度でも潰せるようになっているのである。アイディア商品といえばその通り。
「でもまあ、確かにこんなのいらないよなぁ」
 独り言をつぶやいてみた。白熱した議論をしている二人には聞こえない。
 それから僕は再び本を開くのだが、ふと気づけば僕は何度も無意識のうちにプチプチとやっていたのであった。

 おわり
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